クルーグマン,ノーベル賞(経済学)受賞のタイミング2008年10月14日 14:20

休日の昨日,東京証券取引所は閉じていた。その間,アジアで,ヨーロッパで株価は急反発し,アメリカでは史上最大の上げ幅を記録した。そして本日。東証でも午前終値が9,355円まで伸びた。一昨日(12日),ユーロ圏15カ国が,緊急首脳会合により金融危機対策として採択した「共同行動計画」が功を奏した形となり,アメリカがそれに引きずられ,日本もまた没主体的に買いを入れたという構図となった。

もちろん,この急反発による株価上昇は,持続するようなものではあるまい。激しく乱高下しつつ,全体としては螺旋的に降下していくと見るのが正解だろう。資本注入という,取りあえずの対処療法だけでなんとかなるような性格のものではないからである。実体経済に必要な資金を,いくつかのチョーがつくほど大幅に上回る過剰流動性(金あまり)というのが問題の本質だからである。メタボの身体が,急に収縮したのを,人為的に内臓脂肪を注入して,もとのメタボに戻すようなことだからといえばいいか。信用収縮(金融破綻)とその実体経済に対する直撃という連鎖。かの世界大恐慌も,1929年の「暗黒の木曜日」以後,現象的には一時的に持ち直しつつ,2,3年かかって奈落の底へと落ち込んだのである。

資本主義の原理,市場原理主義に立てば,政府保証などの施策などやめて,市場の赴くままにすべきということになる。あくまでも自己責任の原則を貫き,すべてを経済法則のなりゆきに委ねる。その結果として経済の仕組みがリセットされ,潜在力があればあらためてシステムが再起動するという道。資本注入「粉砕」の反資本主義の立場が,市場原理主義と同一文脈に立つ逆説が生まれる所以がここにある。

ところで,昨夜(日本時間),クルーグマンのノーベル経済学賞受賞のニュースが流れた。ノーベル賞の受賞理由が,リアルタイムの研究というよりも数十年前の実績という伝で言えば,クルーグマンの場合は1980年代の「国際分業のメカニズムに関する説」ということになるのだろう。1990年代以降のクルーグマンは,経済学者というよりも「コラムニスト」のイメージが勝つ。最近では,反ブッシュの論陣をはってきた。そう,むしろ新自由主義的な「小さな政府」というよりも,ケインズ的思潮を評価する(その読み解きが正鵠を射ているかは,ともかく)スタンスを露出してきた。ノーベル経済学賞選考に向けた投票権をもつ人々が,クルーグマンをサポートしたこのタイミングを読み解く必要がある。