天童荒太のアンチロマン2009年01月24日 22:06

今朝,時計代わりにラジオをつけたら,先ごろ直木賞を受賞した天童荒太という作家が偶然しゃべっていた。受賞作の『悼む人』についてである。「相手が誰であろうとわけへだてなく悼むということについて,人々に届けたかった」というのがそのモチベーション。事件や事故で犠牲になった見ず知らずの死者を現場に尋ねてただ悼む,遺族や近しい人に,死者が誰を愛し,誰に愛され,誰に感謝されたかを訊ねて心にとどめる“変な主人公”をなぜ思いついたのかということについてである。そのきっかけは9.11だったというから,またあれかと思ったが,そうではなかった。9.11をうけて10月7日に始まったアメリカによるアフガニスタン空爆であった。斃れる人がたちまち累積する負の連鎖を少しでも断つには,と想像したというようなことだった。「わけへだてなくただひたすら悼む人」。これは,現代の特殊な状況が生み出したアンチロマン(反小説)なのかもしれない。

それで思い出した。最近書店に行くと,舟越桂の彫刻を装幀に使った本が平積みされているが,あれが『悼む人』だったのだ,と。とはいえ,1980年代の終わり頃から芥川賞・直木賞の受賞作は, 1,2年の間をおいてから,というのが習慣になっているので,手に取るとしてもだいぶ先のことになる・・。