大学の「危機」は「事業仕分け」だけ?2009年12月10日 22:06

「事業仕分け」の「結論」に対して,
異議申し立てが相次ぐ。
「異議アリ!」,「ナンセンス!」
と声をあげるのは,当然のことである。
なにせ「目の前のこと」だけを尺度に
ばっさり斬り捨てるのが
ウリなのだから。
大学ぎょーかいの「声」は,
「事業仕分け」の作業が行われつつあった
その時から,
国立と私立の枠を越えての「警戒感」「危機意識」の表明
という形でまず発せられた。

そして今週。
各地域の国立大学(正式には国立大学法人)が
手を携えて,
「予算確保」に向けた声明を
出すまでになった。
そんな中,
要求の一つに,
予算の削減などといわず
「研究者の自由な発想を尊重した投資の強化を」
などというのがあって,
おもわず,苦笑した。
「投資」なるタームが,
メタファーではなく,
ことばの本来の意味で
使われているからである。
あくまで「資本の投下」対象としての
「研究」なのである。
何のことはない。
「異議申し立てする」側も,
「ビジネスの論理」にどっぷりとつかっている。

ヨリ一層深刻なのは,
予算の削減という
きわめてわかりやすい仕儀に対しては
鋭敏に反応するのに,
近時,教育(大学教育)界を
すっぽりと覆っている
「ある種の動き」には
まったく鈍いということである。
鈍いというよりも,
みずから進んで受け入れている「動き」
という方がピッタリだ。
この「動き」の象徴が,
「シラバス」現象。

つい最近まで「国語辞典」に載っていなかった「シラバス」。
かつては
「講義概要」などといっていたが,
1990年代の初頭,
グローバリゼーションの荒波が
大学などにも押し寄せ,
「講義概要」が
カタカナ化して「シラバス」となった。

これが21世紀になり,
モンスター化したのである。
例えば,「達成目標」というのを
書かないと“ドーカツをくう”。

ちなみに「デフレ・スパイラルについて理解する」のが
達成目標というような格好で
書くのをよしとする。
ここで「理解」というのは,
辞書的な説明ができることと同義である。
ということは,カギをにぎるのは
用語を1,2行で定義できるか,どうか。
「デフレ・スパイラル」を含む
現代経済の現象を
体系的に読み解けるか,
というようなことは
最初から想定されていない。
いわばクイズ的に反応できることが
「達成」なのである。

「講義計画」というモンスターもいる。
通年科目であれば,
何をやるのかを30回分,
空白なく書かねばならない。
モンスターたるゆえんは,
カレンダー(学事暦)では
27回分しかとれなくとも,
とにかく30回分書けという点にある。
やら(れ)ないことが明白でも,
ゆるされない。
つじつまあわせ,形だけの世界なのである。
すぐには結果などあらわれず,
時の長~い流れのなかで,
その成果がようやく浮上してくるのが教育だ
ということはもはや視野にはなくなった。
こうした,モンスターとしかいいようのない教育破壊が
猛威をふるっている。
しかし,
アメリカ発のグローバル・スタンダード
という点では,
先の「事業仕分け」の発想と
同一であるにもかかわらず,
このモンスターに対する「異議アリ!」の声は
まったくきこえてこない。
予算という「数字の形」をとる
ものにのみナイーブに
反応する「ナンセンス!」が
花盛りなのである。