「高速水着」問題2008年06月07日 10:42

競泳ジャパン・オープンで,英スピード社製の「高速水着」レーザー・レーサー(LR)を着た競泳選手に続々と新記録(日本新)が出たという。もともと人間が備えている能力を,人間存在の外部の客体物のなかに再現し,人間能力をはるかに超える能力を発揮するものに関わってきたのがテクノロジーである。人間存在の外部の客体物であれば,活用の対象として大いに“称賛”もされてきた。しかし,人間存在の内部に入り,人間の能力を増幅する作用をもつのはむしろ“ウラの世界”を演出するものとして忌避されてきた。直近の例で言えば,巨人のゴンザレス内野手が,ドーピング検査陽性問題で解雇されたことが想起される。

その意味で,今回の「高速水着」はきわめて微妙な問題をはらんでいるのではないだろうか。体内に取り込むものではないが,身体にぴったりと密着している,能力増強グッズ。“オモテ”と“ウラ”の境目の問題であることを象徴する。

前回のエントリーで,「想像力を刺激される」と書いた「テストステロンというホルモン」。機関投資家のみならず,トレーダーは,テストステロン分泌促進剤の出現を待ち焦がれているのではなかろうか・・v(^o^) 。

ツキと生理的身体反応2008年06月04日 19:31

いまはやりの脳科学者の一人に池谷裕二がいる。記憶をつかさどる「海馬」の研究でブレークした。その池谷の担当した『エコノミスト』(毎日新聞社・6/10号)のコラム。短文ながらちょっと面白い。想像力を刺激される。曰く,「英ケンブリッジ大学のコーツ博士は『株で儲かるか否かの予兆が,身体に表れる』という驚くべき研究を報告した」。コーツが,ロンドンの個人投資家260人について,「トレードの損得額と血液内のホルモンとの関係をつぶさに調べたところ」,朝,テストステロンというホルモンが多かった日は,儲ける金額が多く,少なかった日は大損することが判明した,ということを紹介しているのである。「運勢はその日の朝にすでに決まっている――。」

ね,想像力を刺激されるでしょ! 機関投資家は,毎日マーケットが開く前に,並み居るスタッフの血液検査をして,テストステロンの分泌が多いスタッフだけに取引をまかせる,とか。しかし,待てよ!どの機関投資家も軒並み同じ手を用いたら・・?,とか。そういえば・・。1980年代に,証券取引がいわゆるシステム売買=プログラム売買として行われるようになった時にも似たような疑問が生じたことがあったなぁ,とか。今回は,生身の人間の意識を超える生理的身体反応だからヨリ興に乗る。

「念力岩をも通す」が修辞を超える!?2006年11月07日 01:21

Web日経で「考えるだけで模型電車動かす・日立が実験に成功」 という記事に出会った。すぐ思ったのが「念力岩をも通す」。精神をこめた力は非現実的威力を発揮するという、観念の世界の超越性を表現するラングそのものをイメージした。

もちろん、今回の 日立の試みはきわめて「唯物的」だ。人間の脳が活発に働いているとき に血流量が増大することが判明したことがベースだというからだ。実験では赤外線で脳内血流量の変化を測定する装置を頭に装着。模型の電車を走らせたいときは頭のなかで簡単な足し 算や引き算を繰り返し、それが脳の血流を増やす、ということを応用するとのこと。止めたいときには“計算”をやめて血流を減らせばいいということらしい。しかし、 「念力」という情報の発信は、必ずしも“有線”を前提とする必要はない。「念力」を受けとめ、それを読み解くソフトがインストールされてさえいれば、いわゆる無線でとばさ れてきた情報を捕まえるのは容易だ。そうであれば、見た目には「念力が岩をも通す」というのは、ごく日常的なレベルの現実となる・・!?。その延長上では、ソフトを組み込まれた 「人間」が、今回の実験でいえば模型電車となるのも時間の問題というべきだということになる・・。

「頭の体操」か、「脳年齢をためす」ために2006年06月21日 22:16

『日経MJ』が年2回発表している「ヒット商品番付」。本日号に、2006年上期の番付が載った。東西の横綱は、それぞれ「脳を鍛えるゲーム」と「ダ・ヴィンチ・コード」だった。同紙は、「ともに大人が頭脳を働かせ、謎解きを楽しむ商品」だが「日本経済が浮揚する手応えを確かめつつ、一方では少子化が着実に進行。自分を取り巻く経済と社会の変化に対する不安心理を『遊び心で刺激するソフト』や『アタマを使うエンターティンメント』がすくいあげた」と指摘する。しかし、これだけでは分析したことにはならない。例えば、少子化というより「高齢化」がポイントということもある。老化のマイナスをマイナスすると信じて「脳トレーニング」にはげむという解釈のほうがはるかにリアリティに富む。単純な計算や読み書きの能力を練習するドリルが売れているなかに、せめて「いまの脳力」を維持したいと思う中高年のいじらしさが見え隠れしている。

一方、「ダ・ヴィンチ・コード」。これは謎解きにひきつけられるということだけではなく、むしろグローバリゼーションの精神的支柱となっている「キリスト教」の問題としてとらえることが必要なのではないか。

ともあれ、今期の「ヒット商品番付」の東西横綱の意味を読み解くことは、「脳年齢」が試される作業といえそうだ。

その点で、「脳ブーム」の仕掛け人の一人、 茂木健一郎の主張が参考になる。現在は「コンピュータにはまねの出来ない人間の能力が求められる。すなわち、他者とコミュニケーションする能力と、新しいものを生み出す創造性である」。「脳ブーム」は、このことに連動してこそ意味を持つ、と強調する。「正解の決まった問題を素早くこなすのは、コンピュータが得意」とするところであり、ヒトにとってはまさに「人間としての総合力が問われる」と心得るべし、と。