ロングテール現象2006年06月04日 09:46

日本の『エコノミスト』。6月6日号で「Web2.0ビジネス革命」を特集している。Web2.0というのは、ティム・オライリーらが普及したタームであるが、要するにインターネットがいわば第2世代ともいうべきものへ進化を遂げたことを形容したもの。正確な定義はない。同誌のなかでは「グーグルの検索連動型広告とか個人参加型百科事典ウィキペディアの成長、ブログの広がり」などをその象徴としてあげている。検索連動型広告などは確かに進化のレベルが、コンテンツ云々とは異なった段階に入ったことを示 していると見られる。

インターネットはすごい!といわれはじめた90年代後半には、とくに日本語を前提とする限りその注目の大きさと驚きの声の割には実はさほど使いものにならなかった。

それが21世紀に入って大きく変わった。日本語のサイトの成長、情報の累積。2001年からのYahoo!BBが仕掛けたブロードバンド環境(一応)の普及がその推進力だった。英語圏ではヨリ一層進化を遂げたのはいうまでもない。Web2.0はこのような状況の中で話題となっているということだろう。1つだけ注目しておくとすれば、いわゆるロングテール現象。ビジネスがらみでいえば、従来の、売上げ上位20%のアイテムだけで全売上げの80%を占めるというのに対し、ネットを介した販促によって売上げの下位80%のアイテムも累積売上げが上位のそれに匹敵するようになるというのがこの現象。抽象的に言えば、少数者(マイノリティ)もネット上では一大勢力へと化ける可能性をもつ、ということになろう。しかし、マイノリティ=死に筋商品がネット上で掻き 集められてまとまった売上げに到達する、というのはアリだとしても、「売上げ」という結果には対応しない次元(思想・信条的少数派)の問題に応用することは所詮無理なのであろうか・・。

団塊男性、定年後の「小遣い」はネットでゲット?2006年05月17日 15:41

「日経MJ」(日経流通新聞)の今朝の記事(七面)から。電子商取引(EC) 事業(WebShop)の支援ビジネスを展開するEストアーが、団塊世代の男性向けに行った「インターネット利用」に関すアンケート結果が紹介されている (Eストアーのアンケート結果はこちら)。 55歳~59歳という(中)高年を対象としたアンケートという点で言えば、いくつか注目すべきことが示されている。1つ。インターネットを「普段自宅でもよく利用する」が94%。1つ。インターネットの利用目的として、「電子メール」「情報検索」「ニュース」「ネットバンキング」などのパーセンテージが高い。反面、いまはやりの「ソーシャルネットワーク」や「ゲーム」「掲示板・チャット」「自分のHP・ブログの更新」などは低い。「チケット・宿泊予約」「ネットオークション」「ネットトレード」もさほど高くない。1つ。定年後、ネットショップ運営に関して「興味がある(含・すでにやっている)」のが65%。その理由は「小遣いを得る」「自分の好きなこと・趣味を仕事にしたいから」が比較的多い。

ということは、現時点では、インターネットを受身的に使っていながら、定年後はこれを「小遣い稼ぎ程度」には積極的に使いこなしたいと思っているのが団塊世代の男性像ということになる。いま仕事がらみでインターネットを使ってはいるものの、インターネットというメディアの最大の特徴である「双方向性(interactive)」に対しては、自覚的でないとすれば、いわばWebコミュニケーション力という側面ではあまり期待できそうもないだろうから、「小遣いゲット」ははかない夢におわる可能性が大、と言えそうだ(*^.^*)。

ネットショップが安い、は幻想2006年02月28日 23:32

今朝の日経に「大手家電量販店の店頭価格がインターネット通販の『最安値』と拮抗するまで低価格化していること」が出ている。液晶テレビやDVDレコーダー、パソコン、デジカメなど15機種についての比較調査の結果だという。一般的には「ネット最安値は店頭価格よりも安い」と思われているが、実態はそうじゃないということだ。いわゆる還元ポイントを「値引き」とみなした上でのことだが、そうだとしても意外な結果だ。従来はネット通販専業であれば、店舗費用を含む流通費用の面で、実店舗で販売するよりも価格圧縮が可能だから販売価格を低く抑えられるはず、と考えられてきた。価格競争がそれだけ激しく、リアルとヴァーチャルとの区別も希薄化しているということなのだろう。とくにリアルショップにおける従業員の労働条件・雇用環境の悪化がこうした構図を生み出しているのは想像に難くない。実際、労働時間や休暇、給与などはどうなっているのか。いわゆる非正規社員の比重が圧倒的なのか。他方、おそらくヴァーチャルショップでもぎりぎりまで削減された人員で対応しているのだろうから、こちらの実態も知りたいと思う。なお、この日経の記事は、リアル、ヴァーチャルの何れの店舗も運営している量販店においても同一商品に関して後者の価格が前者のそれを下回る傾向が強いことも報じている。その際、「通販サイトは『価格よりも利便性を重視する客が多い』」ということを紹介しているが、これは非常に注目すべき傾向だ。仮にリアル店舗に行けば多少安く買えると分かっていても、わざわざ出かける手間ひまを考えればネット通販を選ぶ、というようなことだろうから。もちろんこの理由だけではないはずだし、「価格」とは異なる要素を優先させる消費者の出現の意味も含めて分析すべき問題だろう。

アマゾンとトヨタ2006年02月15日 10:07

今朝の日経に「アマゾンが直接仕入れ販売」の記事が載った。取次ぎを通さずに版元から直接仕入れ、直接購入者(読者)に配送するという態勢に転換するということだ。 前提には昨年市川に建設した大型物流センターがある。在庫能力が大幅にアップした。もちろんここで注目したいのは、このアマゾンの「攻勢」が日本における図書流通を大きく変えるだろうという点だ。これまでは、小売ルートのカットがメインだった。今後は卸段階が迂回される。いわゆるネット通販(Eコマース)による「中抜き」の完成ということになる。しかも最近大手書店でも置きたがらなくなった専門書も積極的に版元から取り寄せて在庫するという。われわれ売れない本を出している者にとっては「朗報」だ。しかし、と思う。昨年読んだ横田増生著『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影―躍進するIT企業・階層化する労働現場』情報センター出版局を想い出す。これは、かつて80年代に話題を呼んだ鎌田慧著『自動車絶望工場―ある季節工の手記』(今だと講談社文庫)を念頭に取り組まれた本だ。鎌田の本は、周知のように、ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた日本経済を牽引するトヨタの絶望的な労務管理を抉ったものだった。必ずしも読みやすいものではなかったが、その心意気に感じて読んだものだ。そして横田増生の本。これも過酷な労働条件下での就労を強いられているアマゾン労働者の実態を闡明したものだ。脚光を浴びるネット企業の「実態」がいかなるものか、普段便利に利用しているアマゾンの経営姿勢のおぞましさが十分に伝わってくる刺激的な一冊。つまり、出版部数がせいぜい一千部どまりのわれわれの本に「朗報」とばかり喜んではいられない。この「攻勢」がヨリ惨烈な労働強化の下でのみ実行可能かもしれないからだ。