《架空と現実》―ムイシュキン

文化庁が「平成18年度『国語に関する世論調査』の結果について」を発表した。10年以上前から毎年実施している調査だが、今回は、漢字使用にかかわる一般の人々の意識を中心とする調査とのこと。例年取り上げている、慣用句等の言い方や、その意味についての調査結果もある。日常の言葉遣いや話し方、文章の書き方など、言葉や言葉の使い方についての関心は、「非常に関心がある」と「ある程度関心がある」を合わせると7割台後半となった、というのがトップ事項。面白いのは、「漢字が書けないときに，どのような手段で調べるか」への回答。全体としては、当然のことながら「本の形になっている辞書」（60.6％）が最も多い。「電子辞書」は19.4％。ところが年代別でみれば、だいぶ様子が違う。１０～３０代では、携帯電話派が辞書派を上回った。特に２０代は、携帯電話派が79.3％に達し、辞書派はその半分以下の35.4％だった。

年代別の違いは、マスメディアとの距離でも顕著だ。例えば、新聞。「読む」は50代で最も高く（8割台後半），「読まない」は，16～19歳で最も高い（約5割）。ウェブニュースの場合は「読む」は30代で最も高く（約6割）、「読まない」は、60歳以上で高い（ほぼ9割）。

若い世代において、いわば文章離れ、文脈離れが顕著であることがうかがえる。いいかえれば、表現やコミュニケーションが単語依存というか、単語を並べてなんとか切り抜けるというようなスタイルに変わりつつあるようだ。暗黙知ではなく、形式知のみを意識の対象とし始めたといえばいいか。若者の間では、「言葉のあや」、「行間を読む」、「表現のニュアンス」などはもう意識の外のコトになってしまったかのようだ。

勤務先では、ことしも、AO入試が昨日から始まった。数年前まで、担当させられていたが、これがまことに味気ない業務だった。受験生は、AO入試「申請書」を作成し、提出してくる。この出来がちっともよくない。聞けば、担任教員が目を通した上で出したというのがほとんどなのだが、誤字、脱字のオンパレード。また、内容も、どの申請書を見てもまったく見分けがつかないように同じようなことが並んでいる。だから読んでも退屈以外のなにものでもないということになる。自分の存在を知らしめるための表現という意識が皆無なのだ。日頃、文章を読まないから、あるいは言葉の意味をつかむ面白さを知らないから、文字と思しきものをただ並べただけということにしかならない。昼、キャンパスを緊張気味に歩いている受験生を見かけた。今年は担当がなくて“しあわせ”だと実感した瞬間だった。わるいね・・。