「無用の用」という含蓄2006年08月20日 21:13

今朝の朝日の1面トップ。「仕事と無関係のサイト遮断ソフト、企業に浸透・・」とある(Webではこちら)。要するに、企業の間に、仕事と直接関係のないサイトの閲覧を認めないというのが増えているというのがその内容。驚いた。仕事と「無縁」と判断する情報の閲覧を禁じるという「労働環境」がフツーとなりかねない動きだからだ。例えば明日21日。引き分け再試合となった早稲田実業VS駒大苫小牧の結果はいかに?、と思って、スポーツニュースにアクセスしようとしても撥ねられるというわけだ。映画、コンサート、演劇に関する情報や飲食店情報など娯楽性があると判断されるサイトは一切進入禁止。労働時間中はすべて仕事のことのみに集中せよ、というのが企業の方針とある。

ムダの徹底排除が大目標。しかし、これでうまくいくのか?最近流行りのことばでいえば、これで社員のモチベーションが保てるのか?ということだ。“いぶし銀”の選手などに目もくれず、四番打者だけを揃えれば最強のチームができあがる、と思い込んで低迷しているどこかのプロ野球チームにも通底するような話ではないか。

高校の時、漢文は老教師だった。定年後もずーっと非常勤で来ていた名物先生。彼からおそわったので今でも覚えているのが「人皆知有用之用而莫知無用之用也」(荘子)。そう、「無用の用」を説いたもの。ムダ、と思われるものこそ実は役に立つ・・。「効率至上主義」「競争原理」が当たり前、というのを見たり、聞いたりすると必ずこれを思い出す。

ムダを大目にみない日本の企業に明日はない。もっとも、こうした労働環境の趨勢に対して、次のようなコメントで足りると思う法学者にも明日はない。いわく「サイトは情報を得る手段にすぎず、アクセス制限にプライバシー侵害が成立する余地はないと言える。ただ、チェックされる側がストレスを感じる方法だと、人格権の侵害につながる可能性がないとはいえない」。問題を「プライバシーの侵害」「人格権の侵害」として矮小化する民度の低さ・・。