若手医師、脳神経外科を敬遠2006年05月12日 22:03

日本脳神経外科学会の調査によると、2年間の臨床研修を終えて、専門分野として脳神経外科を選ぶ若手医師が減少しているという (Asahi.com)。「全国80大学のうち23大学で、新たに脳外科を選んだ医師が一人もいなかった。都道府県別でみても9県 でゼロ」とのこと。同学会では、こうした傾向がなぜ生じているのかの理由は明らかにしていないが、同じように医師の減少が進む産婦人科や小児科で指摘されてきた、訴訟、トラブルを避け、昼夜の別のない重労働を敬遠するといったことが否定できないと見ているようだ。比較的負担がかるいと思われている科も診療報酬は同一というのも大きな要因と見られる。いわば費用(負担)対効果(報酬)を勘定した結果というわけである。「医は仁術」から「医は算術」への動きを反映したもの、といえば凡庸な解釈に過ぎようか。ともあれ、医療も聖域にあらず、競争原理を導入すべき領域ととらえる今流行の見方に対応した現象であることは間違いない。知の分野では「脳」をめぐる一種のブームが続いている。これと「脳の現場」との落差はあまりにも大きいというほかない。

先日、テレビを点けたら放映していた、脳外科医の上山博康のことが思い出される。彼は「神の手を持つ男」と言われ、これまで手がけた脳動脈瘤は5000件以上らしい。40代の女性の異様に大きい脳動脈瘤の手術を、彼が想定する限りで最高のスタッフ、ベストのチームで成功させた場面で次のようなことを言っていた。「たった一人の人間の命を救うのに何人もの専門家が10時間、15時間にわたって力を合わせる。これは、多数の人間の命を一瞬にして奪う戦争に対するどんな人の考えも確実に変える」。上山は団塊の世代に属する。団塊の世代は、利己的であるかもしれないが、利他的であることもまよわずに引き受ける世代でもある。