中国で「労働契約法」成立2007年06月30日 21:28

中国で「労働契約法」が成立した。実質1年半以上の審議のはての採択だった。興味深いのは、日経が詳しく報道し、読売はごくあっさりとふれたにとどまり、朝日と毎日は少なくとも現時点では、リアルペーパーでもWebでも全く取り上げる気配がないこと。

それはともかく、この「労働契約法」成立の意味は、少なくとも形式的には、中国における“労働力商品の安売り”にブレーキをかけることにあると見てよいだろう。1990年代以降“労働者使い捨て”状態が続いてきたのだが、さすがになんとかしなければならなくなったということである。中国にはすでに10回以上行き、企業調査を続けてきた経験からいえば、中国ではどれほど企業が自由に労働者を使い続けてきたか、雇用と解雇に関していかに裁量の余地が大きく、企業の強権が支配してきたか、は想像を超えるといってよかった。それはまさに“女工哀史”の世界そのものであった。もちろん日本企業を含めて欧米などの外資が中国に進出し続けてきたのも、こうした企業にとってまことに都合のいい条件が“保証”されてきたからである。これが、かつて(いまも?)“労働者と農民の国家”を前面に押し出してきた中華人民共和国での現実だったのだが、いわば湧いて出る「民工」と呼ばれる農村部からの出稼ぎ労働者が陸続としてやってくる間は企業にとって“おいしい条件”は決して消えることはなかった。それがいささか事情が変わってきた。端的に言えば、労働力の逼迫、ということではないものの、労働条件が苛酷であればそれを忌避することが出来るほどには労働者にとっての条件が上向いてきたということである。

雇用契約1年。契約の更新は3回くらいまで。17,8才で働き出し、二十歳を過ぎたらリタイア。いわゆる情報家電工場では、何よりも手先の器用さと目のよさを要求され、長時間労働に耐える肉体が求められる。その緊張を長きにわたってひきうける精神力を持続することはほとんど不可能というべきだ。だからせいぜい3,4年でリタイアする。企業にとってもまことに好都合なのである。彼ら/彼女たちは、リタイア時には、まとまった貯蓄を手にして帰郷するがゆえに、続くものが絶えなかったのがこれまでの情況。だが、情況は変わりつつあるというわけだ。

今回成立した「労働契約法」では「企業が、勤続10年以上を数えるか、期限つき雇用契約を連続して2回結ぶかした労働者との契約を更新する際、終身雇用に切り替えなければならないと明記」した。1980年代まであった「終身雇用制度」のいわば復活。日本企業を含む外資はさてどうしたものか。これまで続けてきた“おいしい条件”が相殺されて、むしろためこんできたものを吐き出さざるを得ないのか。中国からの引き揚げに踏み切るのか。いわゆる単純労働ばかりではなく、熟練労働へと労働の質の高度化の進展するなかでの意思決定を迫られることになった。あ、もちろん、この「法」が額面どおりの効果をもつのか、という素朴な疑問を打ち消すものがないのも事実だ・・。

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