フリーソフトウェアの配布2007年08月17日 22:29

Googleが「スターオフィス」をフリーで提供し始めた。「スターオフィス」は、サン・マイクロシステムズがマイクロソフトの統合型ソフト「オフィス」に対抗して開発したソフト。価格は約70ドル(8千円前後)。これをGoogleが、フリー(無料)で使える環境を提供する。マイクロソフトの「オフィス2007」が5万円弱(いわゆるアカデミック版でも3万円弱)であるのと比べれば、はるかに廉価ではあるが、ユーザーからすれば無償配布というのは驚きであり、使い勝手の優劣という次元を超えて鞍替えしたいと思うものもかなりいるのではないか。むしろマイクロソフトの各種ソフトの使い勝手に対して不平・不満を持つものは少なくない現状からすれば、ソフトウェアの地図が一変するかもしれないとの予測も立つ。マイクロソフトの売上げの1/3を占めているのが「オフィス」といわれる。その主力商品に真っ向から立ち向かうという構図なのである。

Googleは最近、本社ビルの消費電力の3割を自家発電(太陽光発電)に切り替えたことでも話題をよんだ。従来型の電力に対する依存度を下げ、環境を意識しつつ、あたかも工業時代の企業モデルとの差異化・差別化にとくに力を入れているかのように見える。しかし、統合型ソフトを無償で配布する真のネライはどこにあるのか。サン・マイクロシステムズは、Googleに対して料金を請求することを決めている。と、すれば、Googleはその対価をどこに求めるというのだろうか。おそらくはネット広告との連動ということになるだろう。私たちは、こうして広告が広告として意識されず、ごくあたりまえの風景となり、したがってビジネスが即自的に入りんだ日常そのものが企業によって構成され、その生活日常を生きることになる。以前、「フリーペーパー隆盛の行く末」をエントリーした。 その末尾に「れっきとした本を広告付きで無料で配る試み」の広がりを危惧した。と、いうより、実はあまりリアリティはないだろうとたかをくくって書いた。しかし、それがソフトウェアの形で現実となったのである。

認知症の本と“チェ・ゲバラ伝”2007年08月19日 22:51

アマゾンから認知症に関する本を購入した。つい1週間前のことである。この本の購入実績を基に、これまでの購入履歴を参照しつつ、きょうアマゾンから「おすすめ商品」のメールが届いた。Half Seriousというのは、こういうことなのだろうと思った。日本語ではいえば“面白半分”。そのHalf Seriousな、いわゆるカスタマイゼーションというべきおすすめリストを挙げてみる。

認知症の介護のために知っておきたい大切なこと―パーソンセンタードケア入門
認知症とは何か (岩波新書)
サービス・マーケティング原理
認知症介護--介護困難症状別ベストケア50
ヤバい経済学 [増補改訂版]
チェ・ゲバラ伝
認知症の人とともに―認知症の自我心理学入門
若年認知症とは何か 「隠す」認知症から「共に生きる」認知症へ

『ヤバい経済学』というのは、どうもヤバい世界と表裏一体をなしているのが現実の経済社会、というのをえぐった書のようだが、なぜ「認知症」と表裏一体なのかは読んでいないから不明。

『チェ・ゲバラ伝』は、かつて購入したDVDに由来すると思われる。「革命家」ゲバラを生みだすきっかけとなった若き日の南米旅行を描いた映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」がそれである。南米旅行をともにしたゲバラの親友アルベルト・グラナードが実際に映画の最後に出演している。80歳を超えたアルベルト・グラナードの存在感とでもいえばいいか。

そうえいば、今朝の日経に「ゲバラ没後40年」の小さな企画記事が出ている。「左傾化の進む中南米で根強い共感が広がっている」という。あの衝撃的1967年から40年か・・。7月17日にはサックス奏者ジョン・コルトレーンが急逝し、10月8日には羽田闘争(佐藤訪ベト阻止闘争)で京大生山崎博昭が殺された。ゲバラがボリビアで処刑されたのが翌9日(10月9日)だった。

“巣ごもる20代”とか・・。2007年08月22日 21:02

きょうの日経MJに興味をそそる記事が出ている。「MJ若者意識調査」。そのリード文。「車は不要。モノはそれほど欲しくない。お酒もあまり飲まない。行動半径は狭く、休日は自宅で掃除や洗濯にいそしむ。増えていくのは貯金だけ」。MJというのはMarketing Journal のことだから、こうした若者の意識の変化に対して「彼らの消費意欲を喚起する手だてはあるのか」という視点からアプローチしているのはやむをえない。

しかし、マーケティングを離れて、「現代の若者を読む」という意味で言っても非常に面白いテクストというべきだろう。例えば先月、昨今の若者が、モノとしてのクルマに対する欲望が希薄になってクルマが売れないらしいというのをエントリーした。日経MJによれば、クルマへのニーズが後退したのは、「支出額」が大きすぎるからとのことである。これだと、ごく当たり前の解釈で解けてしまうが、他方で「酒も飲まず」、「休日は外にも出ず」というのとセットにしてみると、「個」というミクロコスモスにこもる若者のイメージが前面に浮かび上がる。これまでは、大量輸送機関から、いわば他者との関わりを断つ回路としてクルマに転じるというようなことが語られてきたが、その徹底ともいうべき動きが「動かない個」「行動しない個」にまで到達したかのようだ。「増えるのは貯金だけ」というが、貯蓄の具体的形態が何かまでは説明されていないが(預金なのか、株という金融資産なのか、はたまたこれらとも違う何かなのか)、通帳もしくは画面に現れた純粋抽象としての数字を前に自分の世界に没入する若者の図、というのはいかにも不気味というほかない・・。

瀬戸内寂聴と“老革命家”2007年08月25日 23:53

「はじめて逢った○○さんは、八十とは見えない美男子で、細身に上質の紬の対の和服がよく似合い、何となく粋で、革命家というより、詩人といった風情があった」。これは瀬戸内寂聴が、初めて荒畑寒村に会った時のことを書いたくだりである(本日の日経・37面)。 瀬戸内が、大杉栄や伊藤野枝をめぐって『美は乱調にあり』、『諧調は偽りなり』を出したあと、管野須賀子をテーマにしたものを構想しはじめた際に、神近市子の助言を得て荒畑の話を聴きに行ったときのことを書いたものである。周知のように、管野は、かつて荒畑の連れ合いだったが、荒畑がムショに入っている間に幸徳秋水と通じる仲になったのであった。そのあたりのことを含めてインタビューするという様子がリアルに描かれている。茅ヶ崎の寒村宅に赴くものの、菅野のことはどうも現「家内の前では話辛い」というので、銀座に出る時の印象をつづったもの。噺家並の話術で、間に口を挟む間もなく滔滔と話すのを聞きながら、話が途切れた一瞬瀬戸内が訊いたのが「今、・・一番のぞんでいらっしゃることは・・?」だった。その答え。「もう一日も早く死にたいですよ。ソ連はチェコに侵攻する。中国はあんなふうだし、日本の社会党ときたら・・。一体自分が生涯かけてやってきたことは何になったのか、と絶望的です。・・」。これがほぼ40年前(1968年)の話。

ちょうどその頃(というか、正確に言えばその数年後)、大杉栄と面識があったという老夫婦が営んでいた屋台と居酒屋の中間のような形をしたおでんのお店によく行っていたことを思い出す。いまから思えば、大杉栄も荒畑寒村もまだまだ大過去のことではなく、地続きのことだったのだとしみじみ思う・・。

瀬戸内の「荒畑の項」は来週に続く、とある。