人生相談、分子生物学者福岡伸一の「回答」は2006年06月18日 12:37

日曜日の新聞各紙にはいわゆる読書欄がある。読売にもある。読売の場合人生相談というか身の上相談に対する回答の形をとって何冊かの本を推薦するというコーナーがある。アイデアである。工夫といってもいい。きょうの回答者は福岡伸一。分子生物学者。一昨年、政府がアメリカ産の牛肉輸入についてひたすらその再開を画策し、全頭検査緩和へと転じた時に、『もう牛を食べても安心か』(文春新書)を著した。食のことばかりではなく、生きることの意味を問う思索家の眼が貫いた刺激の書だった。文もうまい。

そこで本日の問答。相談者は「家と職場の往復のつまらない毎日です。時間だけはたくさんあるので、もっと本を読みたいと思います。・・人生を意味あるものにするために・・自分に投資できる本があれば紹介して」と問いかける。福岡の回答。「日常生活の中に『きみ』と呼びかけうる存在をもつこと」。「きみ」はもちろんヒトであるばかりでなく、街であったり物であってもよく、スナネズミでもいいと、まず煙にまく。そのうえで大竹昭子『きみのいる生活』(文芸春秋)『東京山の手ハイカラ散歩』(平凡社)を薦める。次いで「新しい趣味や挑戦をゼロから見つけることはできません。今後の人生、あなたを豊かにするものは、すでにあなたの内部に始まっている何かです」と、相談者にとって果たしてやるき、元気を与えうるのか即断しかねる、それだけに本質的な言葉をつらねる。フツーのサラリーマン田中耕一がノーベル賞を受賞した際に話題になった「セレンデュピティ」にも通ずるようなことを伝えたいようだ。で、ここで注目する1冊が『マリス博士の奇想天外な人生』(ハヤカワ文庫)。「フリーター同然の気ままなサーファー生活をしていた」がドライブ中にひらめいたアイデアによって分子生物学に革命をもたらしたキャリー・マリスを扱った書。キャリーは、業績にまつわる一切の利権からは「疎外」され、不遇をかこつが、結局ノーベル化学賞を受賞した。

結局、自分のテリトリィに相談のポイントをよびこんで回答するしたたかさと読める。相談した「神戸市 しがない30代 女性」の反応は・・・?